子育てと人材育成は似ている?
「子育てと人材育成は似ている」とも言われます。
- では、仕事がデキる人は子育てもデキるんでしょうか?
- 子育て経験が仕事の能力をあげるんでしょうか?
わたしは親子関係改善の仕事を通じ様々な親御さんの事例をみてきましたが、仕事と子育ての能力についての相関性はあまり感じません。
デキる人もいれば苦手な人もいる、上がる人もいればそうでないひともいる。
ただ、仕事脳ばかりで子どもと接することでうまくいかない事例は数多くみています。
ではなぜ、
仕事脳ばかりで子どもと接するとうまくいかないことが多いのでしょうか?
ポイント
それは、子どもと接する上で子育てより人材育成を優先してしまっているから。
ん?子育てより人材育成?どうゆうこと?と思われた方は
子育てと人材育成の違いを知ることで、あなたの視野は広がり子育ても職場の人材育成も今よりずっと楽になるはずです。
- もっと子どもの能力を伸ばしたい
- 職場の人材育成の効果を上げたい
そう考えているなら、子育てと人材育成の違いを知ってみてください。
子育てと人材育成は別物、でも仲良し
子どもに何か教えようとすると反発される…なんだか上手くいかないな…と感じる人は
子育て=子どもの人材育成
と考えているか、無意識に=(イコール)にしているかもしれません。
「人を育てる」という意味では共通点のある両者ですが、その実、まったく別物。
そのくせ、それぞれが成果を出すには両方の要素が必要になってくるため、この両者の使いどころを誤まると、子どもや部下から「あなたに言われたくありません」を匂わす様々な抵抗に合うことになります。
そんなお互いなくてはならい深い関係の子育てと人材育成。
先ずはお互いの目的を確認してみましょう。
子育ての目的
子育てとは
「1人の人間を生み養い、社会的に一人前になるまで育てる仕事」
トマス・ゴードン著「親業」
そう言われるとおり、子育てのゴールは子どもの自立。
でも親の子育ての目的は「子どもの自立」ではありません。
自立するのはあくまでも子どもですからね。
では親の子育ての目的は何かというと
子どもの「心を育てること」
ちなみに、子どもの自立とは「何でも一人で出来ること」ではありません。
実際はむしろその逆。
脳性麻痺により手足が不自由にも関わらず小児科医となり、現在は東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷 晋一郎氏は「自立」についてこう言っています。
「自立」とは、依存しなくなることだと思われがちです。
でも、そうではありません。
「依存先を増やしていくこと」こそが、自立なのです。
これは障害の有無にかかわらず、すべての人に通じる普遍的なことだと、私は思います
自立とは
「依存先を増やしていくこと」
だからこそ親は、子どもが困ったときには子ども自身が誰かに助けを求められるように、他の人が困っているときは助けてあげられるように。
子どもの心を育てていくのです。
人材育成の目的
では次に、企業における人材育成の目的は何か?
それは「企業の成長に貢献できる人材を育成する」こと。
人材育成とは
「企業方針や経営戦略、ビジョンに共感し、企業成長に貢献する人材を育成する」こと
ところで、企業の成長に貢献できる人材とはどんな人物でしょうか?
マネジメントの神様と呼ばれるピーター・ドラッカーの言葉から考えてみましょう。
ドラッカーは、組織とは「社会的な役割を果たすために存在する」のであり、その組織の一つの形が会社だと言っています。
会社は非営利団体と違い利益を出さなければ企業活動を継続できません。
そのため、会社が継続して社会の役に立つために「利益をだす」ことが会社の条件であり、その利益をだすのがビジネスです。
ドラッカーは、ビジネスの目的を「顧客を作り出すこと」だといっています。
There is only one valid definition of business purpose: to create a customer.
- ビジネスの目的の正当な定義はただひとつ。
顧客を作り出すことである。
それは=(イコール)企業は「顧客」の欲しがるものを作ることでしか存在できないことを意味します。
そのため企業は「顧客は何を買いたいか?」というマーケティングと、「新しい市場を作ること」「まだ顧客自身も気づいていない欲求を発見し、その欲求を満たす新しい価値を提供する」イノベーションを通じ「顧客」に価値を感じ続けてもらう努力をしていくのです。
改めて企業の成長に貢献できる人材とは?
それは、企業が行う社会貢献(ミッション・理念)に共感できる人であり、常に「顧客」に価値を感じ続けてもらうことに帰することが出来る人です。
もちろん、すべての業務を一人ではできません。
そのため会社では「顧客の創造」が効率よく行われるよう職位や部門ごとに役割りや業務が振り分けられており、役割りごとや業務ごとに必要な人材育成が行われていくことになります。
子育てと人材育成の違い
目的を見直すだけでも違いのある子育てと人材育成ですが、違いはまだあります。
とりわけ「人を育てる」にはどちらも必要で大切な要素ですから、より両者の違いを知って「人育て」に役立ててください。
子育てと人材育成では、目的を含め以下のような違いが考えられます。
子育てと人材育成の違い
- 目的が違う
- 教える側に必要な能力・姿勢が違う
- 期間が違う
- 関係性が違う
目的が違う
【子育ての目的】
- 心を育てる
【人材育成の目的】
- 会社に貢献できる人材に育てる
同じ「人を育てる」にも、「人の心育てる」のと「組織の役に立つ人材を育てる」のでは目的が大きく違います。
教える側に必要な能力・姿勢が違う
目的が違えば教える側の考え方も姿勢も異なります。
【子育て】
子どもに身につけてほしいといわれるのが「自己肯定感」
自己肯定感は自己を表す最上級の概念と言われ、以下のような感覚を併せ持っています。
自己受容感、自己効力感、自己信頼感、自己決定感、自己有用感など
参考:「自己受容」の低い親が、子どもの「自己肯定感」を高めるために
子どもは、ありのままの自分を肯定されることでこれらの感覚を身につけていきます。
この感覚は目に見えず定性的なもので子ども自身が感じる感覚です。
親がつけさせようとして身につくものではありません。
そのため、親は子どもが安心してその感覚を獲得できるよう以下が大切になってきます。
子育ての姿勢
- 子どもの話を聞く姿勢
- 適切な環境を整えること
- 待つこと
【人材育成】
人材育成は、知識やスキルを教える<人材教育>だけでなく、潜在的な能力を引き出す<人材開発>、経験の伝授など幅広い内容になっています。
育成の対象ごとに課題を洗い出すことから始まり、出来るだけ定量化した目標を定め、研修が必要ならどんな内容で、いつ、どんな方法が効果的なのかを考え、計画、実行します。
計画→実施までこなすため、様々な能力が必要となってきます。
人材育成の姿勢
- 「観察力」「共感力」「洞察力」「企画立案能力」「実行管理力」
講師を務める場合は、教える内容に関する確固たる知識があることは大前提のうえで、以下の能力も求められます。
- 受講者を研修に巻き込みながら進める「教える技術」
- 論理的に分かりやすく「伝える力」
期間が違う
【子育て】
- 心を育てるのに期限はありません。
人の心は生涯、何時でも成長します。
また、いつ育つかは本人のタイミングに任されており、すぐに成果が出にくいものです。
【人材育成】
- 人材育成には期限があります。
階層別であればは次の昇進までだったり、新システムが決まっていれば導入までなど、決められた期限で一応の成果が求められます。
子育てで陥りがちなこと
関係性が違う
子育ても人材育成も、以下の関係でいることがより効果を発揮します。
【子育て】
- 上下関係ではなく横の関係
【人材育成】
- 教わる人が教える人を尊敬できる関係(心理的上下関係)
- 社会的上下関係(上司部下など)
子育てで陥りがちなこと
- 子育ては、子どもが小さいほど親が心理的上下関係を持ちやすい。
人材育成で陥りがちなこと
- 人材育成は、社会的上下関係はあっても、心理的上下関係に齟齬があると効果がうすれがち。
- 例え心理的に関係が悪くても、社会的上下関係があるためケンカになるような事態は少ないが、上下関係があるからこそ不満があっても言わないことも多く、いつのまにか辞めていたというのはよくある話です。
子育てと人材育成のどちらを優先するか
両者の違いが分かったところで、実際の子育てと職場の人材育成に目を向けてみましょう。
上記はよく聞く家庭や職場のお困りごとですが
- 前者は「子育て」と「人材育成」のどちらを選べばいいのかを迷っています。
- 後者は「人材育成」ばかりを優先し「子育て」の視点が抜けているため関係が縮まりません。
その他、子育てより仕事の方が楽だと感じる人は、子どもと接する際に人材育成の視点を優先する傾向にあります。
このように、親子の悩みも職場の悩みも「子育て」と「人材育成」のどちらかの視点が抜けている、またはどちらを優先するべきかのジレンマで状況を悪化させることが多いものです。
では、子育てと人材育成のジレンマに陥ったときにはどちらを優先するべきなのか?
子育ての視点は心理的安全性を高める
答えは明白。
ポイント
優先するべきは子育ての視点。
ここ数年企業で注目を集めている※心理的安全性はまさに子育ての視点を優先している例といえます。
※人材育成・研修・マネジメント用語集
「指示命令したほうが簡単で早い!」という人もいます。
関係が良好なときはそれでも十分でしょう。
しかし、関係がよくない時に相手の心を軽視すると、事態の悪化を招くだけでなく、最悪離職するなど、結果的に余計な手間と時間とお金を費やすことになります。
さらに、教える側も教わる側と同じくらい心身ともに疲弊しますから、無理に人材育成を推し進めるのは百害あって一利なしといえます。
子育ても人材育成もうまくやるために
お伝えした通り、子育てと人材育成は別物、でも「人を育てる」うえでは互いなくてはならない重要なもの。
ぜひ、これまで混同しがちだった子育てと人材育成の視点を分けてみてください。
例えば、Aという行動とBという行動で迷っているなら
「Aはどっちの視点かな?」
「Bはどっちの視点かな?」
「今は心理的安全性は保たれているだろうか?」
「じゃあ次はこっちの視点でやってみよう!」
などと考えてみるだけでも迷う時間が減るはずです。
また、人を育てるというのは教える人教わる人の関係だけで成立するものではありません。
人の成長のすべてを一人で背負わなくていいのです。
ポイント
周囲と分担、協力して育てる意識をもつといい。
もしかすると、人を頼るのは勇気がいるな…という人もいるかもしれません。
でも、協力を求めることは決して責任を転嫁することでも恥ずかしいことでもありません。
むしろ他の人の協力を仰ぐことで、お互いが直接嫌な感情をぶつけ合うことが減り、結果的に教える側も教わる側も、相手に対して優しくなれることも多いものです。
そうして関係性が変化すれば、その後の子育てや人材育成がよりスムーズに進むのは言うまでもありません。
忙しい毎日だからこそ混同しがちな子育てと人材育成。
ぜひ、今日から2つの視点を意識して活用してみてください。
まとめ
以上、子育てと人材育成の違いから「人を育てる」ことについて考えていきました。
今回は両者の違いにスポットをあてましたが、実は子育ても人材育成も「人を育てる」過程で教える側も成長するというのが共通点なんだろうと思っています。